七高僧
七高僧とは
七高僧とは、親鸞が真実の教えを伝えた高僧として讃えた七人の僧侶たちのことである。具体的には
- インドの龍樹菩薩・天親菩薩
- 中国の曇鸞大師・道綽禅師・善導大師
- 日本の源信和尚・源空聖人(法然聖人)
のことをいう。
親鸞は「正信念仏偈」の中で、釈尊がこの世に現れたのは阿弥陀仏の本願の教えを説くためであったと述べている。そして、その真実の教えが私たち凡夫に相応したものであるということを、それぞれの時代ごとに明らかにされたのが七高僧である。
親鸞は「正信念仏偈」の「依釈分」で
インドの菩薩方や中国と日本の高僧方が、
釈尊が世に出られた本意をあらわし、阿弥陀仏の本願はわたしたちのためにたてられたことを明らかにされた。
(『浄土真宗聖典 顕浄土真実教行証文類(現代語版)』P.146より)
と述べた後、七高僧ひとりひとりの功績を挙げて讃えている。そして最後には
出家のものも在家のものも今の世の人々はみなともに、ただこの高僧方の教えを仰いで信じるがよい。
(同じく P.152より)
と、七高僧の教えにしたがうように勧めている。
また親鸞は『高僧和讃』においても七高僧ひとりひとりの功績を讃えている。
地理
七高僧の生まれた大まかな場所を地図に書き込むと次のようになる。また、曇鸞・道綽・善導に関わりの深い玄中寺の場所も併せて記した。
上記の図は筆者が白地図を加工したものである。白地図は白地図専門店のものを使用している。
時代
釈尊、七高僧、親鸞の生きていたおおよその年代は以下の通り。
釈尊 | 紀元前624年~463年頃の生誕とみられる |
龍樹 | 150年-250年頃 |
天親 | 400年頃-480年頃 |
曇鸞 | 476年-542年頃 |
道綽 | 562年-645年 |
善導 | 613年-681年 |
源信 | 942年-1017年 |
法然 | 1133年-1212年 |
親鸞 | 1173年-1262年 |
なお善導は道綽に、親鸞は法然に師事している。この中で面識があったのはこの2組だけである。他はそれぞれの著述を通じた繋がりということになる。例えば、
- 龍樹は『十住毘婆沙論』の中で、釈尊の教えを記した『仏説無量寿経』の「第十八願文」「第十八願成就文」を引用されている。
- 天親が『無量寿経優婆提舎願生偈』(『浄土論』、『往生論』)を著し、曇鸞がその註釈書である『無量寿経優婆提舎願生偈註』(『浄土論註』、『往生論註』)を著した。
- 親鸞の名前の由来は「天親」と「曇鸞」であるといわれる。
- 道綽は玄中寺の曇鸞の功績を讃えた碑文を読み、浄土教に帰依したと伝えられている。
- 善導は釈尊の教えを記した『仏説観無量寿経』の注釈書である『観無量寿経疏』(『観経疏』)を著した。
- 源信は『往生要集』の中で善導大師の教えを取り入れている。そのため、源空は『往生要集』に注目した。
- 源空は『選択本願念仏集』の中で「道綽禅師、聖道・浄土の二門を立てて」「偏に善導一師に依る」などと述べている。
七高僧の選定
『歎異抄』第二条によれば、親鸞は
阿弥陀仏の本願が真実であるなら、それを説き示してくださった釈尊の教えがいつわりであるはずはありません。
釈尊の教えが真実であるなら、その本願念仏のこころをあらわされた善導大師の解釈にいつわりのあるはずがありません。
善導大師の解釈が真実であるなら、それによって念仏往生の道を明らかにしてくださった法然上人のお言葉がどうして嘘いつわりでありましょうか。
法然上人のお言葉が真実であるなら、この親鸞が申すこともまた無意味なことではないといえるのではないでしょうか。
(『浄土真宗聖典 歎異抄(現代語版)』P.7 より)
と述べている。ここに書かれているように、阿弥陀仏の本願の教えは釈尊と七高僧を通して親鸞へと伝えられた。そして親鸞は直接の師匠である法然から時代を逆へとたどり、七高僧を定めていったものと考えられる。
阿弥陀仏の浄土に生まれることを願った僧侶はたくさんいたが、その中から親鸞が選んだのは七名だけである。この七名に共通する特徴として挙げられるのは以下の三点である。
- 著述があること
- 説いていることが、本願の趣旨にかなっていること
- 先人の解釈の踏襲ではなく、その人独自の見解が示されていること
功績
七高僧が示した独自の見解は「発揮」と呼ばれる。それぞれの発揮は以下の言葉で表されている。
※1 | ※2 | |
龍樹菩薩 | 二道の鴻判は南天の功 | 難易二道 |
天親菩薩 | 宣布一心は北天の功 | 一心帰命 |
曇鸞大師 | 顕示他力は雁門の功 | 自力他力 |
道綽禅師 | 二門廃立は西河の功 | 聖浄二門 |
善導大師 | 古今楷定は終南の功 | 要弘二門 |
源信和尚 | 報化弁立は横川の功 | 報化二土 |
源空聖人 | 弘興選択は吉水の功 | 選択本願 |
(※1は『浄土三部経と七祖の教え』P.96より、※2は『はじめて学ぶ七高僧』P.10より引用した)
南天、北天、雁門などの単語はそれぞれの出生地や居住された場所にちなんでいる。
著書
七高僧の著書については、七高僧のそれぞれの項目を参照のこと。
参考文献
[2] 『はじめて学ぶ七高僧』(黒田覚忍 本願寺出版社 2004年)
[3] 『浄土真宗辞典』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2013年)
[4] 『浄土真宗聖典 七祖篇 -註釈版-』(浄土真宗教学研究所 浄土真宗聖典編纂委員会 本願寺出版社 1996年)
[5] 『浄土真宗聖典 顕浄土真実教行証文類(現代語版)』(本願寺出版社 2000年)
[6] 『浄土真宗聖典 歎異抄(現代語版)』(浄土真宗聖典編纂委員会 本願寺出版社 1998年)