精進(精進波羅蜜)

【しょうじん(しょうじんはらみつ)】

六波羅蜜ろくはらみつのひとつ。梵語ぼんごヴィリヤの漢訳かんやく音訳おんやくでは「毘梨耶びりや毘離耶びりや)」となり、毘梨耶波羅蜜ともいう。八正道はっしょうどうのひとつでもある。異訳いやくに「ごんしん勇猛ゆうみょう」などがある。

仏道ぶつどう修行しゅぎょうはげむ」という意味であり、六波羅蜜においては、他の五つの徳目とくもく布施ふせ持戒じかい忍辱にんにく禅定ぜんじょう智慧ちえ)を日常生活においておこたることなく常に実践じっせんをしていく、というぎょうとされた。この六波羅蜜における「精進」と持戒における「不殺生ふせっしょうかい」があわさり、一定の期間、肉食にくじきち心身をつつしむ生活をおくることを「精進日しょうじんび」というようになり、その期間に提供される魚や肉を使用しない料理を「精進料理」というようになった。また、ここから転じて、「品行ひんこうをよくすること」「努力を続けること」などの意味も持つようになった。

親鸞しんらんは『けん浄土真実じょうどしんじつ教行証きょうぎょうしょう文類もんるい』の「信巻しんかん」において、善導ぜんどうの『かん無量寿むりょうじゅきょうしょ観経かんぎょうしょ)』における

「不得外現賢善精進之相内懷虛假」 (※「進」は点が2つのしんにょう) (『浄土真宗聖典全書(一) 三経七祖篇』P.761より)

について、

ほかけんぜん精進しょうじんそうげんじ、うち虚仮こけいだくことをざれ (『浄土真宗聖典 七祖篇 -註釈版-』P.455 より)

と一般的に読み下されるところを

ほかけんぜん精進しょうじんそうげんずることをざれ、うち虚仮こけいだいて (『浄土真宗聖典 -註釈版 第二版-』P.217 より)

と読み替えている。これは、善導においては「外面で正しくいおこないに精進していても、心に嘘偽うそいつわりを抱いてはいけない」という意味を「私の心が嘘偽りに満ちているのだから、外面だけ正しく善いおこないを精進しているように見せることはできない」と、まったく正反対の意味に読み替えており、自己の内面への厳しい慚愧ざんぎの思いをあらわしている。

参考文献

[1] 『浄土真宗辞典』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2014年)
[2] 『浄土真宗聖典全書(一) 三経七祖篇』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2013年)
[3] 『浄土真宗聖典 七祖篇 -註釈版-』(浄土真宗教学研究所 浄土真宗聖典編纂委員会 本願寺出版社 1996年)
[4] 『浄土真宗聖典 -註釈版 第二版-』(教学伝道研究センター 本願寺出版社 2009年)
[5] 『大乗仏教の実践』(高崎直道 監修 春秋社 2011年)
[6] 『中村元の仏教入門』(中村元 春秋社 2017年)

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