忍辱(忍辱波羅蜜)

【にんにく(にんにくはらみつ)】

ろく波羅蜜はらみつのひとつ。梵語ぼんごクシャーンティの漢訳かんやく音訳おんやくでは「羼提せんだい」となり、「羼提波羅蜜」ともいう。

他人からの屈辱くつじょく侮蔑ぶべつを「耐え忍ぶこと」(『浄土真宗辞典』P.533 より)と説明されることが多い。

しかし、韓国かんこく金剛こんごう大学校 仏教文化研究所HK教授の崔恩英(チェ・ウニョン)によれば

①殺害・邪淫・盗みを代表とする、誤った体の行為、悪口・離間すること・嘘・無駄な言葉を代表とする、誤った言語行為を制御するのが持戒である。この七種あるいは意業を含む十種の不善な行為は一旦犯すとだんだんと実行する方へ啓発され、しない方へ向うためには努力が必要となる。その努力が忍辱である。

②忍辱は否定的な対象・状態だけのみならず、肯定的な対象・状態においても実践されなければならない。それで、このような人は苦しみに出会っても心配せず、さらには楽しみに出会っても嬉しくない。忍辱の状態は主に大地に比喩される。大地が対象の美醜、是非、浄不浄を分けず、万物を載せているのと同じ姿が忍辱の状態である。

『大正大學研究紀要 第一〇〇輯特別号』「古くからの実践行、忍辱波羅蜜の現代的解釈(崔恩英)」P.115-116より

とまとめており、単に怒りをしずめ苦しみを耐えることだけではなく、楽しい・嬉しいといった肯定的な感情が起こることをも「耐え忍ぶ」ことが忍辱であり、その状態を継続する努力を含めて「忍辱波羅蜜」という行であるとしている。

なお、「浄土三部経」において、「忍」の文字は「耐え忍ぶ」という意味だけではなく、「認可にんか決定けつじょう」(対象をそのまま受け止め認めること)の意味でも用いられている。

例えば、『仏説ぶっせつ無量寿むりょうじゅきょう』には法蔵ほうぞう菩薩ぼさつ誓願せいがんの第四十八願において

  • 無生法忍むしょうぼうにん……真実をありのままにさとること
  • 音響忍おんこうにん……仏法ぶっぽうき、そのまま受け入れること
  • 柔順忍にゅうじゅんにん……仏法に従順じゅうじゅんし、決してそむかないこと

三法忍さんぼうにんが説かれており、『仏説ぶっせつかん無量寿むりょうじゅきょう』においては、韋提希いだいけが五百人の侍女とともに、釈尊によって無生法忍を悟ったことが説かれている。善導ぜんどう(613-681)は『観無量寿経』の註釈書ちゅうしゃくしょである『観経疏かんぎょうしょ』において、この無生法忍を、「喜忍きにん(法を聴き安心して喜ぶ心)・悟忍ごにん(真実のいわれをはっきりと知る心)・信忍しんにん(本願を疑いなく信じる心)」の三つ(三忍)に分けて註釈しており、その考え方は正信念仏偈しょうしんねんぶつげ正信偈しょうしんげ)の「韋提いだいとうぎゃく三忍さんにん」の文字に見られるように、親鸞しんらんに受け継がれていった。

参考文献

[1] 『浄土真宗辞典』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2014年)
[2] 『浄土真宗聖典 -註釈版 第二版-』(教学伝道研究センター 本願寺出版社 2009年)
[3] 『聖典セミナー 浄土三部経Ⅱ 観無量寿経』(梯實圓 本願寺出版社 2012年)
[4] 『真宗シリーズ6 真宗聖典学① 浄土三部経』(信楽峻麿 法蔵館 2012年)
[5] 『大正大學研究紀要 第一〇〇輯特別号』(大正大學 2015年)

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