讃仏偈
『無量寿経』上巻に述べられる四言八十句の偈頌。法蔵菩薩が世自在王仏に向かって唱えた「光顔巍巍」ではじまる。概要は以下のようになっている。
- 世自在王仏の徳を讃える
- 法蔵菩薩みずからの誓願を述べる
- その誓願の偽りでないことの証明を諸仏に請う
先の親鸞聖人七百回忌大遠忌に際し、日常勤行に取り入れられた。本願寺の如常における、阿弥陀堂での晨朝勤行としてつとめられる。また、春季秋季彼岸会の逮夜法要に際しては、節が付いた讃仏偈作法が用いられる。
他に曇鸞の『讃阿弥陀仏偈』や、『華厳経』『法華経』の中にも讃仏偈と呼ばれるものがある。
原文(漢文)と現代語訳
原文を四句ごとに区切り、現代語訳と共に以下に示す。『日常勤行聖典 解説と聖典意訳』より引用した。また、縦書き表記のものも併せて記載した(矢印ボタン、もしくはスワイプでページの前後移動が可能)。
1
光顔巍巍 威神無極 如是焔明 無与等者
み仏の顔は高大な山のように立派で
お力は無限であります。
このような輝きは
同等なものはありません。
2
日月摩尼 珠光焔耀 皆悉隠蔽 猶若聚墨
太陽や月の光も摩尼(※)
宝珠の輝きも
〔み仏の輝きの前には〕影をひそめ、
墨のようにさえ見えます。
※ 宝球。持つ徳が仏法に例えられる。
3
如来容顔 超世無倫 正覚大音 響流十方
み仏のお姿やお顔の素晴らしさは
世に比べるものがありません。
その正覚のみ声は
十方世界に響きわたります。
4
戒聞精進 三昧智慧 威徳無侶 殊勝希有
〔み仏の〕行いと学習と努力と
心の平静と智慧も
すぐれたること比べものがなく、
まことに立派であり稀有であります。
5
深諦善念 諸仏法海 窮深尽奥 究其涯底
深く諦らかに、善く
海のように広大な諸仏の教えを念い
その深い奥底を窮め、
その涯をも見究めておられます。
6
無明欲怒 世尊永無 人雄師子 神徳無量
愚かさと邪欲と憎悪の心は
み仏には 永遠にありません。
最もすぐれたお方であり、
そのお徳は量り知れません。
7
功勲広大 智慧深妙 光明威相 震動大千
その威徳は広く大きく、
智慧は深く素晴らしく、
放たれる光の力は
三千大千世界をも震り動かすほどです。
8
願我作仏 斉聖法王 過度生死 靡不解脱
願わくは私も仏となり
み仏と斉じように、
迷いの衆生を苦しみの世界から、
すべて抜け出させたいと思います。
9
布施調意 戒忍精進 如是三昧 智慧為上
施しをし心を平静にし、
正しい行いと忍耐と努力と
精神の集中と
智慧〔波羅蜜行〕を窮めましょう。
10
吾誓得仏 普行此願 一切恐懼 為作大安
私も仏となって
普くこの誓いの通り実践し、
すべての不幸な者のために
大きな安らぎを与える者となることを誓います。
11
仮使有仏 百千億万 無量大聖 数如恒沙
たとえ み仏が
百千億万おられ、
み仏の数は限りなく
ガンジス河辺の砂の数ほど多く、
12
供養一切 斯等諸仏 不如求道 堅正不却
すべて これらの
み仏たちをば 供養するとしても、
道を求めて志かたく
決して挫折しないのには及びません。
13
譬如恒沙 諸仏世界 復不可計 無数刹土
たとえガンジス河辺の砂ほど数多く
諸仏の世界があり、
また計り知れぬほどの
数多くの国があろうとも、
14
光明悉照 徧此諸国 如是精進 威神難量
わたしが放つ光は悉く照らし
この国々に行きわたるでありましょう。
そうなるように努力して、
無限の威力を得たいものです。
15
令我作仏 国土第一 其衆奇妙 道場超絶
私を仏にしていただけるならば
その国土はどのみ仏の国よりも勝れ、
その人々は素晴らしく
仏道の場を冠絶したものにしましょう。
16
国如泥洹 而無等双 我当哀愍 度脱一切
国は最高のさとりにふさわしく、
比類なきものとなるでしょう。
私は当に一切衆生を哀れんで、
苦しみから抜け出させましょう。
17
十方来生 心悦清浄 已到我国 快楽安穏
十方の世界からここに来り生まれる者は、
心は悦び、清浄になるでしょう。
私の国に来れば
楽しく安らかになるでしょう。
18
幸仏信明 是我真証 発願於彼 力精所欲
幸わくはみ仏よ、証明したまえ、
あなたこそ私の証人であります。
私はここに願いを立て、
目標に向かって努力します。
19
十方世尊 智慧無碍 常令此尊 知我心行
十方世界の み仏たちの
智慧は無限であります。
み仏たちよ 常に
私の心と行いをお知りください。
20
仮令身止 諸苦毒中 我行精進 忍終不悔
たとえ 我が身は
地獄の苦しみの中に在ろうとも、
私は努力精進し
決して後悔することはありません。
以上。
なお、最後の二句は俳優の高倉健の辞世の句ともなった。
参考文献
[2] 『日常勤行聖典 解説と聖典意訳』(豊原大成 自照社出版 2014年)
[3] 『浄土真宗本願寺派 法式規範(改訂版)』(浄土真宗本願寺派 勤式指導所 本願寺出版社 1999年)