菩提心

さとりの智慧ちえを求める心、さとりの智慧を得えたいと願ねがう心。原語はサンスクリット（梵語ぼんご）のボーディ・チッタで「ボーディ」はさとりの智慧、「チッタ」は意志である。漢訳かんやくでは、「菩提心ぼだいしん」「道心どうしん」「道意どうい」「道念どうねん」「覚意かくい」「無上道心むじょうどうしん」「無上むじょう道意どうい」などと訳される。「阿あ耨のく多た羅ら三藐三さんみゃくさん菩ぼ提だい心しん」の略語ともされるが、これに当たるサンスクリット（梵語）の単語はない。この心をおこすことを発菩提心ほつぼだいしんといい、仏道ぶつどうの出発点とされる。菩提心は、大乗仏教だいじょうぶっきょうにより用いられた語で、自利じり（自己を利すること）と利他りた（他者を利すること）の両面を備える菩薩ぼさつ（さとりを求めて修行するもの）の心ともいえる。

浄土真宗じょうどしんしゅうの宗祖親鸞しゅうそしんらんは、菩提心を「自力じりきの菩提心」と「他力たりきの菩提心」に分けた。そして「他力の菩提心」は、阿弥陀あみだ如来にょらいが衆生しゅじょうに浄土じょうど往生おうじょうを願うようにすすめる「願がん作さ仏ぶっ心しん」（自利）と衆生を救いとって仏ぶつにせしめようとする「度ど衆生しゅじょう心しん」（利他）の二つの徳をもつ「他力の信心」であり、これを「大だい菩ぼ提だい心しん」であるとした。

「菩提心」が含まれる文でよく知られるものがある。浄土真宗で勤行ごんぎょうの終わりに唱となえられる「回向えこう文もん」として多く用もちいられるもので、

願がん以に此し功く徳どく　 平びょう等どう施せ一切いっさい　
同どう発ほつ菩ぼ提だい心しん　 往生おうじょう安楽国あんらくこく （『日常勤行聖典』 P.45 より）

である。これは、真宗しんしゅう七高僧しちこうそうの善導ぜんどうが著あらわした『観かん無む量りょう寿じゅ経きょう疏しょ』（『観かん経ぎょう疏しょ』）「玄げん義ぎ分ぶん」の中にある（『浄土真宗聖典全書（一） 三経七祖篇』P.656参照）もので、書かき下くだすと、

願ねがはくはこの功く徳どくをもって、平びょう等どうに一切いっさいに施ほどこし、同おなじく菩ぼ提だい心しんを発おこして、安楽国あんらくこくに往生おうじょうせん。 （『浄土真宗聖典 七祖篇 -註釈版-』P.299より）

となる。

参考文献

関連記事