三分科

【さんぶんか】

三分科(三分法・三分科法・一経三段)

漢訳仏典圏において、ひとつの経典を序文じょぶん正宗分しょうしゅうぶん流通分るずうぶんの三つの部分に分け、解釈をしていく方法。 インドから中国に仏教が伝わり経典が漢訳されたのち、東晋とうしんの道安(312-385)が創唱したといわれている。 中国の南北朝時代(439-589)に発達した。

序文

現代の論文においては「序論」にあたる。由序ゆいじょともいう。 その経典が説かれることとなった所以ゆえん(因縁)、場所、同席していた人物などを挙げていく部分である。 多数の経典に共通な「通序つうじょ」と、その経典に固有の導入部である「別序べつじょ」に分けられる。

正宗分

現代の論文においては「本論」にあたる。その経典で本来説かれるべき教説が展開される部分である。

流通分

その経典の教えを釈尊の弟子たちに付託ふたくし後世にまで広く伝え(伝持でんじ)、 また世界の隅々にまで行き渡らせる(流通るずう)ことを願う部分である。

上記の三つに分ける分類法のほかにも解釈者によっては多くの分類法が存在する。 一例を挙げると、浄土真宗の七高僧の一人である善導ぜんどう大師(613-681)は、 『観無量寿経』を解釈した『観無量寿経疏かんむりょうじゅきょうしょ』 (観経疏かんぎょうしょ四帖疏しじょうしょ)において、 序文、正宗分、流通分の三分科のほかに、得益分とくやくぶん耆闍会ぎしゃえを加えた五分科として解釈をしている。 また、この三分科はひとつの経典の解釈法にとどまらず、天台智顗ちぎ(538-597)においては 教相判釈きょうそうはんじゃく援用えんようされた。 釈尊の説いた経典群を五時八教ごじはっきょうに分けた「五時八教説」では、 序文を華厳経けごんきょう阿含経あごんきょう方等経ほうどうきょう(浄土経典群を含む)・般若経はんにゃきょうまでとし、 正宗分を法華経ほけきょう、流通分を涅槃経ねはんぎょうとして法華経の優位性を主張し、 最澄さいちょう(767-822)や日蓮にちれん(1222-1282)など後世の日本の仏教に大きな影響を与えた。

参考文献

[1] 『岩波 仏教辞典 第二版』(岩波書店 2002年)
[2] 『浄土真宗辞典』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2014年)
[3] 『真宗学シリーズ6 真宗聖典学① 浄土三部経』(信楽峻麿 法蔵館 2012年)

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仏や聖者の教えを文章にまとめたもののこと。 インドで書かれ、中国で漢字へと翻訳された。
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