三宝
三宝の原語は、サンスクリット(梵語)でトゥリ・ラトナである。「トゥリ」が三つ、「ラトナ」が宝石などの宝を意味するところから、仏教徒が大切にして帰依(※1)すべき三つの宝、「仏」「法」「僧」を指す。初期仏教教団においては、「仏」を仏教の開祖である釈尊(ブッダ)、「法」を釈尊が説いた教えである法(ダルマ)(※2)、「僧」(※3)をこれら「仏」「法」二宝を奉ずる人びとの
三宝成立の経緯は、まず釈尊のもとで最初に出家した五人の修行者が、出家する際に「仏」と「法」に帰依することを誓った(仏教知識「釈尊」参照)。こうして六人で構成される仏教教団が成立すると、これ以降は教団(僧)を加えて三宝に帰依することが仏教徒となる最低条件となった。これを「化儀(※4)の三宝」と呼び、人びとを教化する歩みとして捉えた「三宝」である。
「三宝」にはこの他に、意味の上からは仏・法・僧と区別はするが本質は異ならない同体のものであるとする「同体三宝」(※5)や、釈尊亡きあとの仏教を伝えていくための「住持三宝」(仏像・経典・僧侶)などがある。
浄土真宗の宗祖親鸞は、主著である『顕浄土真実教行証文類』(『教行信証』)において、私たちが三宝に帰依する動機について、
「(略)仏、迦葉に告げたまはく、
<善男子一切衆生、生死を怖畏するがゆゑに三帰を求む。(略)>(略)」 (『浄土真宗聖典 -註釈版-』P.343引用)(現代語訳)
「(略)釈尊は迦葉菩薩に、
<善良なものよ、すべての衆生は、生れ変り死に変って絶えることのない迷いの世界をおそれるから三宝に帰依しようとする。(略)>(略)」 (『浄土真宗聖典 顕浄土真実教行証文類(現代語版)』P.393引用)
と『涅槃経』「四相品」を引用している。
仏教各宗派では、仏教徒として三宝に帰依を誓う「三帰依文」(仏教知識 「三帰依文」参照)を唱える。これは入信の際だけに限らず、たびたび儀式法要や集会の冒頭で一斉に唱和される。
- ※1 帰依
- サンスクリット(梵語)「サラナ」の漢訳。原語が「庇護を求める」「頼りにする」ことから、すぐれたものに対して自己の身心を投げ出して信奉すること。
- ※2 法
- サンスクリット(梵語)「ダルマ」の漢訳。原語は「同じ性格を保つもの」「法則」「行為の規範」などの意味があるが、ここでは釈尊(仏陀)が説いた教え。
- ※3 僧
- サンスクリット(梵語)「サンガ」の漢訳。広義には、釈尊の教えに従ってその教え(法)を実践する出家者、在家信者、見習修行者の集団。狭義には、律蔵の規定条件を満たした出家者の集団。後にこれら集団の構成員である出家者そのものを意味するようになった。
- ※4 化儀
- 天台の教判(教相判釈、経典解釈学。仏教知識「教相判釈]」参照)に用いられる語で、「衆生を教化する方法・仕方」を指す。
- ※5 同体三宝
- 一仏の上に「三宝」が備わっているとする。目覚めたもの(仏)により明らかにされた内容(法)には、高い徳があり諍いがない(僧)が存在するとする。
参考文献
[2] 『浄土真宗辞典』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2013年)
[3] 『ゴータマ・ブッダ 中<普及版>』(中村元 春秋社 2012年)
[4] 『中村元の仏教入門』(中村元 春秋社 2014年)
[5] 『浄土真宗聖典 -註釈版-』(本願寺出版社 1988年)
[6] 『浄土真宗聖典 顕浄土真実教行証文類(現代語版)』(本願寺出版社 2000年)