顕彰隠密

【けんしょうおんみつ】
[教義] [経典]
by 今幾多 康二郎 (正覚寺)
2019/01/16(2020/09/28 更新)

親鸞しんらんが主著『けん浄土じょうど真実しんじつきょうぎょうしょう文類もんるい』の「しんかん」において、『阿弥陀あみだきょう』(『小経しょうきょう』)と『かん無量寿むりょうじゅきょう』(『かんぎょう』)を解釈する際に使われた考え方。略して「隠顕おんけん」ともいう。

けん」とは顕説けんぜつともいい、経典きょうてんにおいてあきらかな形で説かれている教説きょうせつのことである。『小経』においては「一心いっしん念仏ねんぶつとなえる自力じりき念仏」での往生おうじょうであり、『観経』においては「定善じょうぜん雑念ざつねんを払い浄土を観想かんそうすること)」と「散善さんぜん(雑念を持ちながらもさまざまな善行ぜんぎょうしゅすること)」の二善をすすめることである。

おん」とはおんしょうともいい、経典においてあきらかには説かれていないが、釈尊がその経典で真に伝えたかった教説のことである。親鸞は『小経』も『観経』もその隠彰は、弥陀みだ本願ほんがんに任せきる他力たりき念仏による往生を説いているとして、両経の顕説はあくまでも他力念仏へ導きいれるための方便ほうべんであるとした。

親鸞が「化身土巻」において引用した善導ぜんどうの『かんぎょうしょ』も同様の解釈をしており、親鸞の師法然ほうねんも親鸞と全く同じ善導の文章を引用しながらも「諸善しょぜんはいして念仏を立てる」と「廃立はいりゅう」の視点で『観経』を解釈している。また、親鸞が若き日に学んだ天台てんだい教学きょうがくにも「当分とうぶんせつ」(※以下の引用文を参照)という同様の経典の解釈法がある。親鸞はそれらの思想を学びながら、独自の「顕」と「彰隠密」という解釈を確立させたといえる。

『「当分」とは天台学などで、跨節に対する言葉として用いられ、文面に見えているままの法義のことをいいます。それに対して、文面には直接表われていないが、法義のうえから文面を超えて(またいで)解釈することを跨節というのです。』 (『宗報 1996年4月号』「「註釈版聖典 七祖篇」を読む その一(梯実圓)」より)

出拠しゅっこ

また、それぞれの隠顕の出拠について示しておく。親鸞は善導の解釈にしたがうと『観経』に顕彰隠密の義、すなわち「顕」と「隠」の二つの見方があるとした。

しゃく(善導)のによりて『無量寿むりょうじゅぶつ観経かんぎょう』をあんずれば、顕彰けんしょう隠密おんみつあり。

(『浄土真宗聖典 -註釈版 第二版-』P.381より)

また、『観経』に準じて考えると『小経』についても「顕」と「隠」の二つの見方ができることを示した。

観経かんぎょう』に准知じゅんちするに、この『きょう』(小経)にまた顕彰けんしょう隠密おんみつあるべし。

(『浄土真宗聖典 -註釈版 第二版-』P.397より)

このように善導が『観経』の隠顕を明らかにし、親鸞が『小経』の隠顕を明らかにした。

参考文献

[1] 『浄土真宗辞典』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2014年)
[2] 『浄土真宗聖典 -註釈版 第二版-』(教学伝道研究センター 本願寺出版社 2009年)
[3] 『阿弥陀経に聞く』(藤場俊基 響流書房 2014年)
[4] 『宗報 1996年4月号』(浄土真宗本願寺派 本願寺出版社 1996年)

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