五徳瑞現
五徳瑞現とは、釈尊があらわした気高く清らかなすがたのことをいう。これは『仏説無量寿経』(『大経』)が釈尊の出世本懐の経典であることを示す根拠の一つになっている(仏教知識「出世本懐」も参照のこと)。
出拠(出典)
五徳瑞現の文は『大経』の「発起序」に書かれている。弟子の阿難が、『大経』をまさに説こうとされている釈尊の様子を見て次のように言った。
今日世尊、奇特の法に住したまへり。 今日世雄、仏の所住に住したまへり。 今日世眼、導師の行に住したまへり。 今日世英、最勝の道に住したまへり。 今日天尊、如来の徳を行じたまへり。 (『浄土真宗聖典 註釈版 第二版』P.8より)
これにより阿難は釈尊のすがたを5つの徳によって讃えた。
意味
この文は憬興の『無量寿経連義述文賛』(『述文賛』)で解釈されており、親鸞が『顕浄土真実教行証文類』(『教行信証』)の「教文類」でこれを引用している。これを参考にするとそれぞれ次のような意味になる。
- 今日世尊、住奇特法 ...... 世の中でもっとも尊いものとして、とくにすぐれた禅定に入っておいでになる
- 今日世雄、住仏所住 ...... 煩悩を断ち悪魔を打ち負かす雄々しいものとして、仏のさとりの世界そのものに入っておいでになる
- 今日世眼、住導師行 ...... 迷いの世界を照らす智慧の眼として、人々を導く徳をそなえておいでになる
- 今日世英、住最勝道 ...... 世の中でもっとも秀でたものとして、何よりもすぐれた智慧の境地に入っておいでになる
- 今日天尊、行如来徳 ...... すべての世界でもっとも尊いものとして、如来の徳を行じておいでになる
いずれも『浄土真宗聖典 顕浄土真実教行証文類(現代語版)』P.15より抜粋した。
出世本懐の根拠
親鸞は『大経』を釈尊の出世本懐の経典(釈尊が最も説きたかった教え)であるとし、その根拠の一つとして五徳瑞現の文を挙げている。『浄土和讃』の「大経讃」の中にこのことを述べたものがある。ここに書かれた釈尊の
- 「尊く気高いお姿」
- 「たぐいまれな輝かしいお姿」
- 「ひときわ美しく輝いていらっしゃるそのお姿」
は五徳瑞現のことを表している。
(五一)
尊者阿難座よりたち 世尊の威光を瞻仰し
生希有心とおどろかし 未曾見とぞあやしみし(現代語訳)
阿難は座から立ち上がり、釈尊の尊く気高いお姿を仰ぎ見て、たぐいまれな心がおこったと驚き、これまでそのようなお姿を拝見したことがないと不思議に思った。(五二)
如来の光瑞希有にして 阿難はなはだこころよく
如是之義ととへりしに 出世の本意あらはせり(現代語訳)
釈尊の輝かしいお姿はたぐいまれなものであり、そのお心にかなった阿難がわけを尋ねたところ、釈尊はこの世にお出ましになった本意を説き示された。(五三)
大寂定にいりたまひ 如来の光顔たへにして
阿難の慧見をみそなはし 問斯慧義とほめたまふ(現代語訳)
釈尊は、大いなる禅定に入って、ひときわ美しく輝いていらっしゃるそのお姿に気づいた阿難の智慧を見通され、よくすぐれた問いをおこした、とおほめになった。 (『浄土真宗聖典 三帖和讃(現代語版)』 P.33-34 より、それぞれ原文と現代語訳)
参考文献
[2] 『聖典セミナー 浄土三部経Ⅰ 無量寿経』(稲城選恵 本願寺出版社 1999年)
[3] 『聖典セミナー 教行信証 教行の巻』(梯實圓 本願寺出版社 2004年)
[4] 『浄土真宗聖典 浄土三部経(現代語版)』(浄土真宗教学研究所浄土真宗聖典編纂委員会 本願寺出版社 1996年)
[5] 『浄土真宗聖典 顕浄土真実教行証文類(現代語版)』(本願寺出版社 2000年)
[6] 『浄土真宗聖典 三帖和讃(現代語版)』(浄土真宗本願寺派総合研究所 本願寺出版社 2016年)