どこへ向かって手を合わせるのか
合掌礼拝
我々仏教徒はよく合掌・礼拝をします。その際、我々はどこへ向かって手を合わせているのでしょうか。仏像や仏壇やお墓に向かって手を合わせる場合もあれば、人によっては位牌、過去帳、御遺体などに向かって手を合わせる場合もあるのではないでしょうか。
浄土真宗では本尊へ向かって手を合わせます。一見して本尊が見当たらない場合にも、実は本尊へと向かっています。
本尊
本尊とは宗教の信仰対象となるものであり、浄土真宗における本尊は阿弥陀如来です。『浄土真宗辞典』によれば
阿弥陀如来の木像や影像、あるいは名号を礼拝の対象として安置する。 (『浄土真宗辞典』 P.621 より)
とあります。影像は絵像(仏の姿が描かれた掛け軸)ともいいます。寺の本堂では木像、仏壇では絵像の場合が多いかと思います。また葬儀の際に「南無阿弥陀仏」と書かれた掛け軸をご覧になった覚えがある方も居られるのではないでしょうか。どれも同じ阿弥陀如来ということになります。
仏壇の中にある阿弥陀如来の絵像は、本来目に見えないものを表したものである。同じく、仏壇とは目に見えない浄土を形に表そうと試みたものである。 (真宗の本棚『仏壇』より)
とあるように、仏壇や絵像そのものに手を合わせているのではなく、あくまで阿弥陀如来に向かって手を合わせます。
様々な状況での本尊
本堂や仏壇の場合はわかりやすいですが、他にも様々な場合があります。幾つか例を挙げて解説します。
お墓
お墓参りの際、墓石の前で手を合わせます。お墓や御遺骨に向かって手を合わせているのではなく、阿弥陀如来に向かっています。
墓石の正面に「南無阿弥陀仏」と刻まれている場合はこれが名号ですから、阿弥陀如来に向かって手を合わせることになります。また他の文字(「倶会一処」「○○家」など)が刻まれている場合もありますが、その場合には別に携帯用の本尊を用意します。
ただ、こう書いておいてなんですが私は今まで携帯型の本尊を持っていっていませんでした。お参りするご家庭に本尊がない場合などは持っていくのですが、お墓のときまではそこを徹底できていません。今後、持参するよう心掛けたいと思います。
葬場勤行
いわゆるお葬式のことを葬場勤行といいます。遺影、供花、棺といった印象が強いかもしれませんが、必ず本尊が置かれています。お葬式という特殊な状況で本尊に意識を向けることは難しいと思いますし、無理にそうしなくてもいいと思います。本尊が必ずあるということを頭の片隅にでも入れておいていただければ幸いです。
臨終勤行
多くの場合、臨終勤行は故人が亡くなった後に御遺体の前で故人に代わって僧侶と故人の親族が勤めます。枕元で勤めることが多いので枕経と呼ばれることもありますが、本来は臨終勤行といいます。これから亡くなっていかれる方が最後に行うお勤めです。
このときも御遺体ではなく阿弥陀如来に向かって手を合わせます。仏間で勤める場合でしたら仏壇ということになります。ですから仏壇の扉は開けておくようにします。
しかし、部屋の間取りによっては仏壇の方を向こうとすると御遺体に背中を向けざるを得なくなることがあります。どうしてもやむを得ない場合は私は御遺体の方を向いています。その場に居られる方々が最も気にかけておられるのは故人のことでしょうから、「阿弥陀さまに失礼だけど」と思いつつそうしています。なるべくそのような配置にならないよう事前に考えた上で御遺体を安置するのが理想的です。
火屋勤行
火屋勤行とは葬場勤行が終わった後、火葬場に行き火葬炉の前で行う勤行です。このときの光景を知っておられる方は「本尊なんて置かれてなかったような」と思われるかもしれません。実は棺の中に「南無阿弥陀仏」の名号を入れております(納棺尊号、または入棺尊号といいます)。御遺体に向かって勤めているようですが、このときも本尊の方に向かっています。
仏徳讃嘆、仏恩報謝
そもそも浄土真宗のお勤めは阿弥陀如来への感謝の思いから仏徳讃嘆として行うものですから、そこには本尊である阿弥陀如来がなくてはなりません。例えば「御遺体に向かって手を合わせて念仏したりお勤めを行ったりすると、それが因となってその方が浄土往生し、すくわれる」ということになってしまうと、浄土真宗の他力の教えから外れてしまいます。
とはいえ現実的な話として、人は常に阿弥陀如来のことばかりを考えていられるわけではありません。先ほども書きましたが、例えば葬儀の場で故人よりも本尊のことを優先して考えるというのはかなり難しいことではないかと思います。ですから、その場では故人へと意識を向けていただいて、後日また落ち着いたときに「阿弥陀さまに向かって手を合わせる」ということを意識していただければと思います。
「本尊(阿弥陀如来)に向かって手を合わせる」「浄土真宗のお勤めは仏徳讃嘆であり、仏恩報謝である」これらのことを意識しておけば、仏具を配置するときなどに何を一番大事に考えればいいのかがわかりやすいのではないかと思います。