得度式
得度式とは
本宗門の僧侶となって師弟同信の約を結ぶ儀式。御影堂において行うことを例とし、必要がある場合は変更することがある。
(『浄土真宗本願寺派 法式規範(改訂版)』P.162より)
一言で言うと僧侶になる儀式である。例外もあるが、通例は宗祖の月命日逮夜にあたる15日夕方に行われ、1月は御正忌報恩講を勤修するため、4月は新年度本願寺人事の関係で行われない。この式では三帰依文を低頭のまま唱え、安心、報謝、師徳、法度に分けて示した浄土真宗の信仰の要点を示した『領解文』を大きな声で唱え、剃刀、袈裟、度牒、法名をいただくことが目的である。法名は自分で決めることが出来る。これは帰敬式においても同じことがいえる。
この30-40分の式のために得度習礼という10日間の軟禁生活が始まる。本願寺と離れた場所にあるこの習礼場では外部との接触は許されず、携帯電話等の使用も禁止される。一切を遮断した集団生活を行わなければならない。
今は私が行った時代と違うから多少の違いはあるだろうが、20年以上前の私の記憶では朝五時前に起きて、身支度の後に勤行、八時程に朝食、講義、昼食、講義、勤行、夕食、課題発表といった生活であった。勤行は二種類の勤め方がある「正信偈」、『御文章』や『領解文』を大きな声を出して読み上げるなど約1時間朝夕に行われる。講義は釈尊や親鸞の教えを中心に基本的な仏教知識を学ぶ。課題発表は「正信偈」、『領解文』は暗記、『御文章』の拝読や経本の頂き方など様々なものをクリアしなければならない。この生活を得度式までに繰り返し、勤行や作法の練度を高めて得度式に臨む目的である。意外にも十日も要するのは本願寺派だけである。
経験した方はこの生活で一番しんどかったことは正座で足がしびれたとしばしば耳にするが、私はそれ以上に運動不足でしんどかった記憶がある。上記の生活リズムはとにかく動かない。いや動けない。計測はしていないが日に1000歩も歩かない。ずっと読経か講義のどちらかである。その後の経験でも足を動かしている方が正座は楽な気がする。
得度習礼場に入所するときの条件で男性は坊主頭で入ることである。私の時は女性が一人もいなかったから、直接見てはいないが女性はお団子頭かショートカットでよいらしい。得度式の前日に理容師さんがたくさん習礼場に来て見習い坊主の頭をあらためて綺麗にしてくれる。これがまたカオスであった。八割方の坊主頭は出血をして、なかには血が止まらなく顔が血だらけになる者もいた。理容師さんはカミソリで剃るため頭の形が悪ければ悪いほど出血多量になる傾向があった。筆者は剃り終わった後理容師さんからペシッッと頭を叩かれた。私の頭の形が卵形なのでおそらくいい音がすると思ったのであろう。今でも覚えているが実際いい音がした。
いよいよ15日宗祖逮夜の日没から薄暗い御影堂に火灯が灯され、上記の作法が次第に勤まり、翌日の宗祖命日の晨朝勤行で僧侶としての第一歩を勤め、お斎(食事)をいただいてから、新米坊主がそれぞれの地元へ帰る。
気がつけば古い記憶になりつつあるので思い出しながら書いたが、だいぶと忘れていることの方が多い気がする。習礼場で同じ班になった人の中には一生の朋友となる者もいれば、今まで会う機会のない人もたくさんいる。振り返ると貴重な10日間であった。2020年12月現在、新型コロナウイルス感染症の拡大のため得度習礼場も閉鎖されている。