AIと仏教

【えーあいとぶっきょう】

最近流行っている "ChatGPT" というものを御存知でしょうか。いわゆるAI(人工知能)ですね。今回は ChatGPT についてご紹介しつつ、AI が仏教に及ぼす影響について考えてみたいと思います。

ChatGPT

まず簡単に ChatGPT について解説します。ただし情報源は Wikipedia 等の Web サイトです。ChatGPT 本人に尋ねた内容もあります。情報の正しさは保証しかねますので、「知らんけど。」をつけてお読みください。

ChatGPT とは人工知能(※1)を用いた、チャット(対話)形式で質問に答えてくれるツールです。OpenAI 社が2022年11月に公開しました。当初は GPT-3.5 を使用しており、2023年3月にはさらに高機能の GPT-4 も選択できるようになりました。GPT は言語モデルの一種、ChatGPT は GPT を利用したツールの一種とお考えください。

言語モデル

言語モデルとは、自然言語(※2)をモデル(※3)化したものです。私たちの使っている言語をコンピューター上で再現したものとでも思ってください。言語モデルは「文章の中で、ある単語の次にどのような単語がどのぐらいの確率で来るのか」という情報を大量に持っています。例えば「私の好きな食べ物は」という文に続く単語は高い確率で「たこ焼き」「ステーキ」などであり、「机」「車」といった無関係な単語が来ることはまれでしょう。こういった情報の集合が言語モデルです。

GPT

その中でも規模が大きく高機能なものを LLM (大規模言語モデル, Large Language Model) といい、その一つが GPT (Generative Pre-trained Transformer) です。Generative とは「生成的」という意味です。GPT には学習したデータを利用して新たな文章を生成する機能があります。Pre-trained とは「事前学習を行った」ということです。事前学習とは言語モデルに言語の一般的なパターンや構造を学習させることです。その後、ファインチューニングという段階へと進みます。Transformer とは、GPTがトランスフォーマーアーキテクチャに基づいていることを表します。

AI が変える社会

ChatGPT は非常に高い機能を持っており、私たちの生活を変えてしまうような大きな発明ともいわれています。プログラムのコードまで生成してくれるそうです。プログラミングの手間が大幅に減りますね。また、文字だけでなく画像生成の分野でも AI の研究は盛んに行われています。イラストレーターの仕事が AI に奪われる可能性があります。そればかりか、いずれ知的労働はAIに取って代わられて人間には肉体労働のみが残るのではないかという意見もあります。失業する人にとってはたまったものではありません。歴史上幾度となく繰り返されてきたことなのでしょうが。

一方、絵がヘタな人にも上手な絵が作れるようになったり、車の運転ができない人が AI の自動運転を利用したりと、AI には人間の能力をおぎなってくれる可能性があります。大いに期待したいところです。

AI と仏教

僧侶の役割は AI に取って代わられるのか

仏教にはどのような影響があるでしょうか。僧侶の役割は AI に取って代わられるのでしょうか。コラム「僧侶のつとめ (2)」に書きましたが、僧侶の役目は「きょうほう」だと思っています。「きょうがくきょう」と言い換えてもいいでしょう。

読経は今でも録音したものを再生すれば自動化できますが、それにも関わらず僧侶を必要として下さる方々がおられます。私たちはそのことに感謝し、全力で応えなくてはなりません。

教学(教え)の方はどうでしょうか。AIが何でも答えてくれるのなら私たち僧侶はお払い箱です。もっとも今のところ仏教関連の知識はとぼしいようで、ChatGPT に尋ねても間違いを含んだ回答が返ってくることが多いです。彼は堂々と嘘をつくので、注意深く読む必要があります。

例えばこの説明はデタラメですね。親鸞しんらん聖人しょうにんほんがんつくっていたり、第11代目であるはずの顕如けんにょが2代目になっていたり、本願寺が現在も大阪にあることになっていたり……。「ChatGPT は一般的な質問に対する回答はレベルが高いが、事実関係を含む質問に対する回答はレベルが低い」という指摘もあります( 大学の授業でチャットGPTをどう扱うかについての覚え書き より)。

しかし、笑っている場合ではありません。こんな誤りはすぐに訂正され、正しい答えを返してくれるようになるでしょう。その進化のスピードは私たちが想像するよりもはるかに速いと思います。現行の ChatGPT にしても、同じ質問を何度もしていると毎回違った回答を返してくれるのですが、だんだんと正しい内容になってきます。どういう仕組みなのでしょうね。

新たな宗派が現れる?

将来、全ての「経」・「律」・「論」(仏教知識「」の「三蔵さんぞう」を参照)を学習した "AI しゃくそん" や "AI 親鸞" が登場してもおかしくありません。既に全文検索(※4)を用いた経典の分析が行われています。コラム「聖徳太子展に思う」で少し紹介されている「コンピューターを活用した「大蔵経だいぞうきょう」の研究」とあるものがそれです。GPT 等の登場により、この分野の研究もまた進んでいくのではないでしょうか。

"AI 釈尊" や "AI 親鸞" がこれまで誰も思いつかなかった解釈を見出す可能性もあります。そこから新たな宗教・宗派が現れてもおかしくありません。ちょっとワクワクしてきます。しかし「"AI 教団" にもんを盗られた」などと浄土じょうど真宗しんしゅう教団が難癖なんくせをつける未来は見たくないものです。AI を悪者にするのではなく、その解釈の内容に注目したいものです。

しんきょうにんしん

最終的には AI と僧侶、どちらの声を信じるのかは信用の問題になってくる気がします。私たちは「やっぱりお寺さんの言うことはもっともやなあ」と思ってもらえるように努めなくてはいけません。

善導ぜんどう大師だいしあらわした『往生おうじょう礼讃らいさん』の中に「自信教人信」という言葉があります。自ら阿弥陀あみだぶつの救いを信じ、他人にも信じるようすすめるという意味です。念仏者ねんぶつしゃのあるべき姿だといわれています。口で言うのは簡単ですが、容易なことではありません。これは善導大師も親鸞聖人も「難しい中でも特に難しい。」と言われています。

今のところ、ChatGPT に関していえば信心は持っていないようです。先に紹介した通り、彼は考えているわけではありません。文脈に従い、高い確率で現れる単語を選んで繋げていっているだけです。本人に聞いても「意識や感情は持たない」と言っています。しかし、見かけ上意識や感情を持つように見えるのであればそれは意識や感情といっていいのかもしれませんが……難しいですね。また、浄土真宗においては信心は衆生しゅじょうが阿弥陀仏よりいただくものですから、「ChatGPT が衆生なのかどうか」ということも気になります。私個人の意見としては ChatGPT 等のAIは今のところは衆生ではなく信心も持っておらず、「自信教人信」はできないと思っています。AIと僧侶の違いはこの辺にあるのではないでしょうか。

AI とのつきあい方

AI と今後どうつきあっていくかということになりますが、私個人としては今のところ、ちょっとした調べ物や単純作業に ChatGPT を使うところから始めています。例えばこの記事を書くにあたっていろいろなことを教えてもらいました。また、「真宗の本棚」の原稿を書く際に漢字にふりがなをつける作業を任せてみました。記事の叩き台としての文章を作ってもらうのもよさそうですね。もちろん今のところ彼の生成する文章は信用ならないものですから、最終的には自分で内容をチェックする必要はあります。つまり自分でチェックできるだけの知識や能力が必要になってくるわけです。まだまだ勉強はサボれませんね。

AI の発展の驚異的な速さを考えてみると、やがては完全に人間を越えてしまう時代が来るかもしれません。私がこの原稿を書いているのは2023年4月のことですが、ほんの数ヶ月経ってしまえばここで書いた内容もあっという間に古いものになってしまうでしょう。しかし、どのような時代が来たとしても私としては人間が自ら学び考えることを放棄してはいけないと思います。これは合理的な考えというよりは私個人の信念に近いかもしれません。AI に任せきりになるのではなく、上手に利用し上手につきあっていきたいものです。

あ、でも車の運転は早く自動化してほしいですね。私は車の中で寝ることにします。

語注

※1 人工知能
AI(人工知能、Artificial Intelligence)の定義は、研究者や専門家によって異なる解釈がなされているため、一つの明確な定義は存在しない。一般的には「人間の知能や認知機能をコンピューターやソフトウェアシステムに実装じっそう模倣もほうする技術」を指すと言われている。
※2 自然言語
日本語や英語など、人間が意思つうのために一般的に使う言語。プログラミング言語などと区別してこう呼ぶ。
※3 モデル
現実世界の複雑な現象やシステムを簡略化し、理解しやすく表現したもの。例えば気象モデルは気温・気圧・風速などのデータを用いて天候の変化を予測する。
※4 全文検索
複数の文書(ファイル)から特定の文字列を検索すること。検索対象が膨大ぼうだいになる場合には検索にかかる時間がとても長くなってしまうため、高速化のためにさまざまな技術が研究されている。

参考文献

[1] 『OpenAI』 (https://openai.com)
[2] 『Wikipedia - GPT(言語モデル)』 (https://ja.wikipedia.org/wiki/GPT_(%E8%A8%80%E8%AA%9E%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB)) (2023年)
[3] 『Wikipedia - 言語モデル』 (https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%80%E8%AA%9E%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB) (2023年)
[4] 『Wikipedia - 全文検索』 (https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A8%E6%96%87%E6%A4%9C%E7%B4%A2) (2023年)
[5] 『大学の授業でチャットGPTをどう扱うかについての覚え書き』 (https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/83222/a0bcbb26b9b2dcd5f1cf8de6fcb0899a?frame_id=673887) (明戸隆浩 2023年)

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