花まつり
毎年4月8日に仏教の開祖である釈尊の誕生を祝い、その威徳を讃える仏事。
釈尊は、紀元前624年~463年頃(諸説あり)の4月8日(2月8日の説もあり)、ネパール南部のルンビニー(現在ルンミディ村)で、父シュッドーダナ(浄飯王)と母マーヤー(摩耶夫人)の間に誕生した。名は、ゴータマ・シッダールタ。様々な仏伝によると、マーヤーの右脇から誕生し、七歩歩み、右手で天を、左手で地を指さして
「天上天下唯我独尊(世間において私が最も勝れたものであるの意)」
(玄奘『大唐西域記』より)
と言葉を発し、竜が天からやってきて香湯を注いだという。
仏教詩人アシヴァゴーシャ(馬鳴)作の仏伝『仏所行讃』では、
『獅子の歩みをなして、四方をながめ、「わたくしは、さとりを開くために、また世の人々の幸せのために生まれてきた。わたくしが迷いの生存のうちに生まれるのは、これが最後である」といって、将来なすべきつとめについてのことばを述べた。(一五)
天から、月の光のように清らかな二条(ふたすじ)の水流が下りてきた。その一つの流れは寒冷の力をもち、他の流れは温熱の力をもったのであった。身体に触れるとさらに化楽を生ぜしめるようにと、かれのやさしい頭の上に落下した。(一六)』
(『ゴータマ・ブッダ 上<普及版>』 P.116-P.117より)
と記されている。これら仏伝は、後世の人々が釈尊の偉大さを讃えるために伝えてきたものであると考えられる。
花まつりでは、これらの仏伝をもとに、花御堂の中に灌仏桶(水盆)を置き甘茶を入れ、その中央に右手で天を左手で地を指さした誕生仏を安置する。法要では、竜が釈尊の頭上に香湯を注いだことに因んで、参拝者が柄杓で誕生仏の頭上に甘茶をかける。
花まつりには、「灌仏会」「仏生会」「降誕会」等、様々な呼び方があるが、明治以降に浄土宗が代称に「花まつり」を採用し、現在は多くの宗派で用いられている。 平安中期の仏教入門書ともいえる『三宝絵 下』(源為憲 編)には、
「承和七年四月八日に、清涼殿にしてはじめて御灌仏の事を行はし給ふ」(841年)
とあり、日本でも古くから行われている行事であることが窺える。
参考文献
[2] 『岩波 仏教辞典 第二版』(岩波書店 2002年)
[3] 『ゴータマ・ブッダ 上<普及版>』(中村元 春秋社 2012年)