戦国本願寺外伝 第七章 蓮如の結婚歴

【せんごくほんがんじがいでん07 れんにょのけっこんれき】

宗祖親鸞しんらん妻帯さいたいの道を選び(仏教知識「妻帯」参照)、子、孫、曽孫……へと繋がっていったが、このことが本願寺歴代住職の継職へと発展した。本願寺第八代蓮如れんにょも同じように妻帯者であった。現代の日本仏教において、さまざまな宗派でも僧侶の妻帯はごく一般的なことであるが、これは明治時代からである。それ以前の時代では浄土真宗以外の僧侶が妻帯するということはあり得ないことであった。実際には子供をもうける僧侶もいたそうだが、妻帯していることを公にすることは無かったそうである。

蓮如は八十四年の生涯で五回結婚し十三男、十四女の計二十七人の子供に恵まれた。この五回の結婚は全て妻が亡くなってからのものであり、同時期に二人の女性を迎えるということは無い。今回は蓮如の結婚歴として、どのような人と結婚したかということを紹介していく。

最初の妻は将軍家に従事する伊勢いせ貞房さだふさの娘のにょりょう(?-1455)である。いつ結婚したかは定かではないが、長男である順如じゅんにょが1442年(嘉吉かきつ2)(蓮如二十八歳の時)に生まれているのでこの頃であろうと推測される。この当時としては晩婚であった。四男三女をもうけたが、1455年(康正こうしょう1)に亡くなる。蓮如が継職する二年前の出来事であった。この頃は蓮如の父である本願寺第七代存如の晩年であり、五間四面の御影堂と三間四面の阿弥陀堂が完成した時であった。蓮如自身が部屋住みの頃であり、蓮如の晩年と比べると本願寺が厳しい時代で苦しい時を共にした女性であった。

二人目の妻は如了尼の妹のれんゆう(?-1470)である。三男六女をもうけ、この中には蓮如の後継となる本願寺第九代実如じつにょが誕生している。この蓮祐尼は蓮如が継職をして、天台宗末寺から本願寺独立へ大きな改革を行い、「寛正の法難」から現在の滋賀県を転々とする激動期を共にした女性であった。姉と同様に大変な苦労を蓮如とともにした。

三人目の妻はにょしょう(1436-1501)といった。如勝尼の父は「応仁・文明の乱」で大敗を喫した守護大名山名氏の分家の娘とされている。この乱で「花の御所」を去り、母親と吉崎へと移る。そこで蓮如と出会いまもなく結婚する。1477年(文明9)長女をもうける。元々病弱であったが、出産を経てから病気になり亡くなる。生まれた娘も二十四歳で亡くなるが、この亡くなった娘から二人の子供が生まれた。その内の一人は八十一歳まで生きるが、信長の長島攻め(コラム「戦国本願寺 第七章 長島の戦い(2)」参照)の際に海に身を投げるという最期であった。

四人目の妻はしゅうにょ(?-1486)といった。飛騨ひだ国司こくし(飛騨地方の行政官)であるあねがこう昌家まさいえの娘であった。兄弟には歌人として有名であった姉小路基綱もとつながいる。1481年頃に蓮如と結婚したと推定され、一男一女をもうけてまもなく亡くなる。

最後の妻は蓮能尼れんのうに(1465-1518)といった。現在の石川県能登のと地方の出身である。能登国守護畠山はたけやま氏一族である畠山政栄はたけやままさひでの娘であった。1486年(文明ぶんめい18)頃に結婚したと推定される。五男二女をもうける。蓮如は1499年(明応めいおう8)に亡くなるので蓮能尼は蓮如の死を看取ったことになる。蓮如の死後、現在の大阪城の前身である石山いしやま本願寺(大坂おおさか御坊ごぼう)に住んだ。1506年(永正えいしょう3)頃、有力な武将であった細川政元ほそかわまさもとが畠山勢を討伐するために本願寺に派兵を打診する。実如は渋々とこの要請を受け入れたが、河内国と摂津国の僧侶や門徒たちは権力者の命令で武力行使(一揆)を行うことは言語道断であると反対する。そして大坂御坊の僧侶たちが中心となり、実如の代わりに蓮能尼の長男である実賢じつけんを宗主として擁立しようとしたが失敗する。このことから蓮能尼や実賢は本願寺を退去したが、暗殺された細川政元まさもとから権力を奪った畠山尚順はたけやまひさのぶ尚順ひさよりとも)らによって赦免され山科本願寺の南殿なんでんで暮らした。

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