御煤払い
冬至が近づく頃の季節は陽も短くなり、寒さが一段と厳しくなる時期である。本願寺の御影堂・阿弥陀堂は木造建築物であり、御影堂は七百畳以上、阿弥陀堂は五百畳以上ある広大な空間である。両堂は暖房器具が無いゆえ寒さは一層のことである。
この時期、本願寺に限らず日本の様々な寺社で煤払いという行事が行われる。煤払いは現代のことばに言い換えると『大掃除』である。普段、本願寺では僧侶や念仏奉仕団や職員が畳を乾拭きしているが、年に一度の大掃除を毎年十二月二十日に勤める。
御煤払いは毎年本願寺の僧侶や参集いただいた門信徒と一緒に行う。これは室町時代の本願寺第8代蓮如の頃から始まったとされ令和の今日まで続いている。
現在の晨朝勤行は六時からであるが当日は特別に三十分早く勤められる。勤行が終わると、僧侶は黒衣の袖を縛り後に纏め動きやすい格好になり、頭には頭巾をかぶる。門信徒も同じく動きやすい格好に頭巾を装着し、マスクを着ける。両手には笹竹と呼ばれる棒状の竹を持つ。これは背中をかく時に使われる孫の手のような姿形をしている。皆一斉に外陣の内陣側から尊前を背に堂縁の方に向く。そして僧侶の代表が開始の合図をすると一斉に笹竹で畳を叩く。叩きながらゆっくりと堂縁に進んでいく。ちなみに叩くというより"しばく"といったほうがよいかもしれない。堂内に居る二百人以上の人が一斉に畳を叩く音はまるで爆竹が鳴り響くような轟音である。三秒もすると前が見えなくなるほど、埃が宙を舞う。先述した頭巾やマスクはこのためである。終わる頃にはマスクの口元は黒くなる。慣れている経験者は目を護るゴーグルを装着する者もいる。N95マスクを装着した者も居た。これは決して大げさなことではない。埃は大団扇を扇いで外に風を送るがこれだけでは到底追いつかない。外陣堂縁側に大きな業務用の扇風機を設置するがそれでも埃は舞ったままである。僧侶は堂内の欄間の埃を払うため十メートル近くの脚立を昇って埃を落とす。ここにもびっしり汚れが溜まっている。こうしてたくさんの人が協力して一年の垢を落とすことが年末の恒例行事であり、除夜会(大晦日)、修正会(元旦)、御正忌報恩講(一月九日から十六日)といった新年の行事に備えるわけである。なかなか圧巻な光景であるため一度でも奉仕されてはいかがでしょうか?といいたいところであるが、圧倒的な埃の量であるためアレルギー体質の方は控えた方がよいかもしれない。